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排他的行動



要約
 

 
チュウヒが行う排他的行動は、相手がチュウヒである場合(種内)とチュウヒ以外の種類である場合(種間)とでは、その様子が異なる。種内での排他的行動は、主に「追跡飛行」「追い出し」「攻撃行動」「警戒音」「足下ろし」に分けられる。種間への排他的行動の多くは「攻撃行動」であり、「足下ろし」は見られない。




種内での排他的行動

 チュウヒ間での排他的行動は、繁殖期には同性間で多く見られる傾向がある。ただし、繁殖生態の都合からオスの方がメスよりも飛行時間や飛行距離が長いため、単に確率的な要因でオス同士(同性同士)での排他的行動が見かけ上多くなっているだけの可能性もある。
 越冬期の排他的行動は雌雄に関係なく発生しており、雌雄間での排他的行動に明確な優劣は見られない(多田 2017)。ただし、成鳥は幼鳥に対して優位となる傾向がある(多田 2017)。

 越冬期のチュウヒ間での排他的行動の発生頻度には日中の個体数が関与していることが推測されるが、排他的行動の増減を明確に説明できるほどではなかったとの報告がある(多田 2017)。新しい個体が渡来して間もない頃に排他的行動が増加するという明確な傾向は見られないことから(多田 2017)、なわばりが隣接する個体とのなわばりを巡る争いは行動は時間が経過しても減少することはないようで、隣接する個体とは常に対立状態の拮抗が続いているようである。

 チュウヒの排他的行動について、多田(2017)は以下に記した「追跡飛行」「追い出し」「攻撃行動」「警戒音」「足下ろし」の5種類に分類している。

1.追跡飛行

 なわばり主が、なわばり内を飛行する侵入者に対して、後ろから追い立てるようにして飛ぶ行動(平野 2005、多田 2017)。
 なわばり主の個体が、侵入者に対してある程度の距離を保ちながら飛ぶこともあれば、侵入者に追いつく程の速さで飛ぶこともある(多田 2017)。このような行動は、侵入者をなわばりから追い出すまで行われる(多田 2017)。
 越冬期のチュウヒの排他的行動の中で最も多く見られる行動である(多田 2017)。一方、繁殖期には個体密度が低下するせいもあってか、越冬期ほど頻繁には見かけない。

    (後ろの個体が、前の個体を追飛中)


2.追い出し
 
 なわばり主が、なわばり内で地上や樹上に止まっている侵入者に向かって行き、侵入者をその場から追い出す行動(多田 2017)。
 侵入者を追い出した後、なわばり主は侵入者が追い出される直前まで止まっていた場所にしばらくの間止まっていることが多いが、時には樹上などに止まることなく飛び去ることもある(多田 2017)。
 侵入者をなわばりの外に追い出すという点では追跡飛行と似るが、追い出しでは飛び立った侵入者をそれ以上追いかけることはない点や、攻撃行動や警戒音が同時に観察されることがない点で区別できる(多田 2017)。

3.攻撃行動

 なわばり主が、なわばり内の侵入者に向かって急接近しながら両足を突き出し、疑似的な攻撃を行う行動(多田 2017)。
 採餌飛行をしている最中になわばりの主と侵入者が出会い頭に遭遇した際に行われることもあれば、追跡飛行の最中に行われることもある(多田 2017)。越冬期に侵入者を直接攻撃することはまれだが(多田 2017)、繁殖期には、他のつがいの巣に接近し、オス同士が空中戦を演じることがある。その際、2羽のオスは帆翔して相手より高く上昇しては、相手に接近し、足で蹴り合うが、争いはすぐに収まり、それぞれのテリトリーへと引き上げる(彦坂 1984)また、足爪で互いを掴み合う行動も、少数例が観察されている(NHK「ダーウィンが来た」参照)。
 なお、ヨーロッパチュウヒでは、実際に足爪でお互いを掴みあって地上に落ちていくのが稀に観察される(Clarke 1995)また、このような行動について、アフリカチュウヒでは最も攻撃的な行動であり、とりわけ同性内や、侵入者が縄張りの奥深くまで侵入してきた際に見られるといわれている(Simmons 2010)

4.警戒音

 なわばり主が、なわばり内の侵入者に向かって「ミビャア、ミビャア」と聞こえる声で鳴いたり(平野 2005)、「ピィーヨ、ピィーヨ」と甲高く鳴いたり(鶴 1990)する行動(多田 2017)。樹上や地上などに止まった状態で鳴くことが多いが、追跡飛行の最中に飛びながら鳴くこともある(多田 2017)。

5.足下ろし

 なわばり主が、なわばり内を飛行中の侵入者に対して接近し、翼を水平より上の位置に広げて誇示しながら、両足を下げて飛ぶ行動(多田 2017)。
 足下ろしの後は互いにその場から離れていくため、足下ろしの後に侵入者に対して追跡飛行や攻撃行動を行うことはない(多田 2017)。追い出そうとした側だけがすることもあれば、両者がすることもある。
 繁殖期には隣接するペア同士などで特に渡来直後によく見られ、ペアの巣間距離が近い場合、繁殖期後期までよく見られる(先崎 2017)。越冬期には1月頃から発生頻度が高くなる傾向が見られる(多田 2017)。
 なお、ヨーロッパチュウヒでは、足下ろし行動(leg lowering)はテリトリーの境界を保つときに使われる脅しの1つであり、怪我をするような接触を防ぐためのものである可能性が示唆されている(Clarke 1995)アフリカチュウヒでは、この行動は繁殖開始の直前から見られ、ヒナの独立する頃には減少する(Simmons 2010)また、アフリカチュウヒでは足下ろし行動の89%は同性内で見られた(Simmons 2010)

    (上の個体が、下の個体に対して足下しをしている)

6.その他

 ・「ミュア」と聞こえる声で鳴き、脚を出しながらジャンプを繰り返す(先崎 2015)。
 ・地上に降りている相手に対して、同じく地上に降りた状態で羽を半分ほど開き、尾羽を目いっぱい広げて、相手に見せつけながら横にゆらゆらと揺れる(先崎 2015)。
 ・対決する2個体がそれぞれ地上へ降りて翼や尾羽を広げて横に揺れ、再び数m脚を出してジャンプする。この際「ケッ」と聞こえる声を断続的に出す(先崎 2017)。




種間での排他的行動

 
他種からの縄張りの防衛行動は、3月下旬の造巣期から、ヒナが営巣場所を離れ始める7月初旬まで見られたとの報告がある(日本野鳥の会岡山県支部 2002)造巣期から抱卵期はオスが、育雛期は雄雌共同で防衛を行なっていた(日本野鳥の会岡山県支部 2002)。なお、他種への警戒は100〜200m離れると見られなくなるようであり(西出 1979,日本野鳥の会岡山県支部 2002,多田ほか 2010)、巣の距離から平均すると約190〜340mだったとの報告もある
 ただし、チュウヒの他種への排他的行動は繁殖とは関係なく見られることも多い。


 種間での排他的行動は攻撃行動が主であり、追跡飛行・追い出しのような行動や、縄張り侵入時の警戒音もまれに見られるが、足下ろしは見られない。
 攻撃対象の多くはトビ(西出 1979,日本野鳥の会岡山県支部 2002, 多田ほか 2010,市川ほか 2011,環境省自然環境局 2015)で、他にカラス類(ハシブト・ハシボソ)(日本野鳥の会岡山県支部 2002, 多田ほか 2010,市川ほか 2011,環境省自然環境局 2015,多田 未発表、ノスリ(市川ほか 2011,環境省自然環境局 2015オオタカ(日本野鳥の会岡山県支部 2002,環境省自然環境局 2015ハイタカ(多田 未発表)ハヤブサ環境省自然環境局 2015、コチョウゲンボウ(多田 未発表)、ミサゴ(多田 未発表)、ハチクマ(多田 未発表)ハイイロチュウヒ(多田 未発表)、オジロワシ境省自然環境局 2015)アオサギ(日本野鳥の会岡山県支部 2002)、カルガモ(若杉 1982)がある。
 逆にチュウヒがカラスや猛禽類から攻撃行動を受けることもしばしばあり、前述以外のものではミヤマガラス(多田 未発表)、チョウゲンボウ(環境省自然環境局 2015)ケリ(若杉 1982)、タゲリ(多田 未発表)、ウミネコ(多田 未発表)ユリカモメ(多田 未発表)、キジ(多田 未発表)からモビングを受けることもある。
 なお、工事中の人為的作業に伴うチュウヒの異常行動の多くは営巣中心域で行われていた一方で、営巣中心域内での作業であっても異常行動を起こさないエリアも存在する(土門ほか 2019)



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