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繁殖の概要



要約

 
チュウヒは基本的に一夫一妻で、時に一夫多妻となることがある。
 繁殖個体は、冬の間に繁殖地に飛来し、3月頃に波状ディスプレイを行う。3月下旬にはつがいを形成して造巣をはじめる。4月下旬には抱卵を開始し、抱卵5週間ほどでヒナが孵化する。ヒナは孵化後60〜75日齢で親から独り立ちする。
 繁殖終了後、親鳥と一部のヒナは繁殖地から姿を消し、越冬地に向かう。




一夫多妻とつがい相手の変更

 チュウヒは基本的に一夫一妻だが、ときに一夫多妻となることがある(日本野鳥の会岡山県支部 2002,中川 2006,千葉ほか 2008,小栗ほか 2009,多田ほか 2010, Eduence Field Production 2011,先崎ほか 2015(b),土門ほか 2017)。ある年の北海道勇払原野ではペア全体の2割が一夫二妻となっていたり(先崎 2017)、最大で一夫三妻の例(先崎 2017)があるが、一夫多妻の場合に両方の巣からヒナが巣立つことは少なく先崎ほか 2015(b))多くの場合は「正妻」以外との繁殖に失敗しているようである。
 また、チュウヒは一旦つがい形成をした後に、つがい相手を変えることがある(中川 2006,多田ほか 2010,多田 2014(a),先崎 2017)つがい相手を変える主体は、オスである場合とメスである場合の両方があるが、変えた主体の縄張りはつがい相手が新しくなってもあまり変わらないようである。多いものでは、つがい相手のオスを1シーズンに3回変えたメスが観察されている(中川 2006)





繁殖の各ステージ

1.つがい個体の飛来

 
繁殖を行う個体は、早いものでは12月には繁殖地に飛来している(多田 2014(a))
 チュウヒの越冬数が少ない地域では、青森県への飛来は3月(多田ほか 2010)北海道への飛来は3月下旬〜4月下旬となっている(富士元 2005, Eduence Field Production 2011,先崎ほか 2015(b))



2.繁殖ディスプレイ

 2月下旬になると、他のチュウヒを追い立てるオスの行動が頻発し(若杉 1982)2月下旬〜3月には繁殖行動の1つである波状飛行(フライトディスプレイ)が見られる(中川 1991,日本野鳥の会三重県支部 2006, 多田ほか 2010,市川ほか 2011,多田 2014(a))
 繁殖行動の開始直前となる4月頃に飛来してきた個体では、繁殖地に飛来してすぐに波状飛行を開始する。


3.つがい形成

 オスは前年の縄張り付近に戻ってくるようである。しかし、メスは必ずしも前年のペア相手ではない(Eduence Field Production 2011,土門ほか 2017)また、一夫多妻のチュウヒの場合、年によっては隣接するなわばり間でつがいのオスが変わることがしばしばある(先崎ほか 2015(b))。どの行動をもって、つがいが形成されたと判断するかは難しいところもあるが、基本的には雌雄での餌の受け渡しが見られた段階で、つがいが確定するようである。
 メスの存在下において、オスの波状ディスプレイが観察され始めてから40日程度で雌雄によるつがい間での行動のようなものが観察された報告がある(多田 2014(a))一方、越冬個体の少ない青森県では、波状ディスプレイが観察され始めてから半月以内につがい形成を行う場合もある(多田ほか 2010)早いものでは、メスが飛来してから7日程度でつがい形成したと思われる事例もある(多田 2014(a))


4.造巣

 早いものでは巣材運びが2月下旬に観察されているが、このときはまだつがいが形成されていなかった(市川ほか 2011)つがい形成後の巣材運びは、早いものでは3月下旬には開始している(日本野鳥の会岡山県支部 2002)越冬期にチュウヒの少ない青森県では4月上旬には開始し(多田ほか 2010)、北海道では4月中旬には開始しているようである(富士元 2005)
 巣材運びを始めてから抱卵するまでの期間は、13日以内の例(多田 2014(a))や、7日以内と思われる例(日本野鳥の会岡山県支部 2002)がある。
 巣材運びは雌雄共同で行うが、オスが巣の基礎となる材料(1mを超えるヨシの茎など)を運んでくるのに対して、メスは産座になる材料(数十cmのやわらかい草の葉など)も運んでくる。巣材を取ってくる場所は巣の近くにあり、よく取りに行く場所は数か所ほどに限られてことが多い。ヨシ原の中で巣材を拾うため、その様子を直接見ることは難しいが、筆者はチュウヒが枯れたヨシを地面から引き抜いて運んで行ったのを見たことがある。このことから、折れて倒れている巣材以外にも、必要に応じて巣材を引き抜いて利用するものと思われる。巣材は足に掴んで巣まで運ぶこともあれば、嘴にくわえて運ぶこともある。
 巣が完成した後も巣材運びは続き、ヒナが飛び始める頃まで巣材運びが続けられる(日本野鳥の会岡山県支部 2002,多田ほか 2010)。ビデオ撮影した1例では、ヒナの孵化後に持ち込まれた巣材は、単に巣の上に積み重ねられるだけで、産卵前の造巣のようにしっかりと巣に織り込まれることは無いようである。

 なお、イタチ(西出 1979)やハシブトガラス(中川 2006)により卵などが捕食された場合などには、チュウヒが縄張り内の別の場所で再営巣することがある(樋口ほか 1999,多田 2014(a))例として、4月4日に巣材運びを始め、その後、巣材運びをする場所を2回変えて、ヨシを積み上げた作りかけの巣のような場所を7月3日までつがいが利用していたものがある(多田 未発表)
 再営巣の多くは抱卵などに至らず繁殖が失敗していると思われるが、中には再営巣後に繁殖を成功させた例もある(多田 2014(a))


5.交尾と産卵
 

 交尾は早いものでは4月上旬に観察されている(日本野鳥の会岡山県支部 2002)交尾は樹上や地上で行われる(千葉ほか 2008,多田ほか 2010)また、人工物の木柱の上で行われた例もある(多田 2014(a))。交尾の一連の流れは次の通りである。1.オスが鳴きながらメスに近づく。 2.メスが腰を上げ、オスがメスの背に乗る。 3.交尾の姿勢は4〜10秒ほど続き、その間オスは鳴くことは無く翼を広げながらバランスを取る。 4.交尾後にオスは飛び立ち、メスは体を震わせて羽を整える。
 産卵は4月上旬に観察されているが一般的には4月下旬のようである(西出 1979,樋口ほか 1999,多田ほか 2010)産卵は2〜3日間隔で行われると推測されている(西出 1979)
 なお、抱卵中に繁殖に失敗した場合は再繁殖を行うことがある(樋口ほか 1999,多田 2014(a))再繁殖の場合は、産卵の前に交尾をやり直し、産卵が6月上旬になることもある(多田 2014(a))


6.抱卵

 抱卵は主にメスが行う(西出 1979,日本野鳥の会岡山県支部 2002,多田ほか 2010)
 抱卵は2卵目から開始すると推測されているが(西出 1979)1卵目から抱卵するとの記述もある(平野 2010)なお、近縁種のヨーロッパチュウヒでは、1卵目から抱卵を開始するが、抱き続けるようになるのは2〜3卵目からとされている(Clarke 1995)
 抱卵期間は28〜35日程と推測されている(中川 1991,日本野鳥の会岡山県支部 2002,千葉ほか 2008,多田ほか 2010)なお、近縁種のヨーロッパチュウヒでは、抱卵期間は約30〜36日で、そのうち69.2%が33日だったとの報告がある(Witkowski 1989)
 抱卵中のメスは、オスから給餌を受ける(西出 1979, 日本野鳥の会岡山県支部 2002)その際、メスは巣からあまり離れていない別の場所で餌を食べるが(西出 1979)その間、オスは巣のそばにいるだけで、巣には入らないことが多い。しかし、メスが巣を開けている間に、オスが代わりに抱卵を行ったのが2例観察されており(日本野鳥の会岡山県支部 2002)筆者も数例を観察したことがある。


7.ヒナの孵化

 ヒナの孵化は、早いものでは5月上旬の記録があり(西出 1979)6月上旬までに孵化するのが一般的である(若杉1982,日本野鳥の会岡山県支部 2002,池田ほか2007,納家ほか 2007,千葉ほか 2008, 多田ほか 2010)
 遅いものでは、ヒナの孵化が7月中旬となったものが3例ある(樋口ほか 1999, Eduence Field Production 2011,多田 2014(a))


8.メス親の狩りの開始時期

 
メス親はヒナが孵化した後も、しばらく巣に留まり続ける。しかし、ヒナが孵化してから3週齢ほど経つと、メス親も巣を離れて狩りを行うようになる(中川 1991,多田ほか 2010)早いものでは、ヒナが推定2週齢(多田 2014(a))もしくは推定8日齢(日本野鳥の会岡山県支部 2002)になった時点で、メスが巣を離れて狩りをしていた記録もある。
 ただし、メス親によるヒナへの給餌はあまり積極的に行われないことも多く、その際は特に狩りを行うわけでもなく、巣から少し離れた場所に降りて過ごしているようである。


9.ヒナへの給餌

 ヒナに与える餌の大半は、オス親が捕まえてくる。岡山県での1例では、ヒナへの給餌440例のうち409例がオス親が捕った餌であり(日本野鳥の会岡山県支部 2002)青森県の1例では、39例中30例がオス親によるものだった(多田 2011)一方で、オスもメスも頻繁に餌を運ぶとの報告もある(中川 1991)
 オスが餌を運んできた場合には、一旦メスが受け取った後に、巣に持ち込むことが多い(日本野鳥の会岡山県支部 2002)小さな餌はそのままヒナに給餌するが、大きな餌の時はヒナが食べ易いように親が小さく調理してから巣に持ち込むとの報告もある(日本野鳥の会岡山県支部 2002)。筆者の観察では、ネズミの頭や内臓の一部を外して巣に持ち込む親鳥が観察された一方で、まったく調理せずに巣に持ち込む親鳥もおり、親によって調理の有無や程度が異なるようである。
 なお、ヒナがある程度大きくなり、親鳥が巣内に留まらなくなると、親鳥が巣に持ってきた餌をヒナが取り合うようになる(多田 2011)。チュウヒのヒナが餌を食べる際には、もう片方のヒナに横取りされないように、両翼を広げて餌を隠しながら食べることがある(多田 2011)
 ヒナへの給餌回数は日によって異なるが、1日の間に巣立ち前のヒナ3羽に対して計8〜25回の給餌を行った記録がある(日本野鳥の会岡山県支部 2002)。多いときには1時間に両親を合わせて5回の給餌(オスのみで4回)を行うが、平均すると1時間〜30分の間に1回の給餌頻度となっているようである(日本野鳥の会岡山県支部 2002,多田 未発表)


10.ヒナの成長

羽などの外見の変化

 孵化したばかりのチュウヒのヒナは、スズメ位の大きさで、全身真白な綿毛に包まれている(西出 1979,千葉ほか 2008)
 孵化後12日目ごろになると、ムクドリぐらいに成長するが、まだ綿毛に包まれていて、翼では羽鞘が出はじめているが羽弁はまだ開いていない(西出 1979)卵歯は少なくとも孵化後13日目までは脱落しなかった(千葉ほか 2008)
 孵化後17日目ごろになると、翼の羽鞘も羽域に出揃い、風切羽の羽弁が開きはじめてくる(西出 1979)
 孵化後25日目になると、キジバトぐらいの大きさになり、体羽の羽鞘も出揃い、小翼、風切り、雨覆の羽弁も伸び、白い綿毛に暗褐色の羽毛が混じる(西出 1979)
 孵化後28日目以降になると、このころから雛の成長が急激に早くなり、頸から喉にかけてと脛、それに肩、雨覆にまだ白い綿毛が残るが、胸や背、風切などは体羽が生えそろって白と暗褐色のだんだら模様となる(西出 1979)
 孵化後30日目の幼鳥では、額から頭上にかけてと脛に綿毛が残るだけに変わり、孵化後32〜35日目には額から頭上の一部に綿毛がわずかに残るだけとなる(西出 1979,高橋ほか 2017)

    
     (左:推定14日齢)       (中:推定18日齢。羽鞘が伸長中。)  (右:推定34日齢。綿羽が所々に残る。)


体重の変化

 近縁種のヨーロッパチュウヒでは、ヒナの体重は生後25日齢ごろには雌雄での判別が可能なほどに差が現れ、生後30日ごろには体重の増加がほとんど止まることが報告されている(Witkowski 1989)


立って過ごす時間の変化

 孵化後約15 日齢には84%の時間を巣内で伏せるか座って過ごしており(多田 2011)17日齢ぐらいまでは肘を使ってよたよたと立ち上がるがすぐに尻をつく(西出 1979)
 孵化後25日齢になると、両脚を伸ばした状態で立てるようになり(西出 1979)約30 日齢 には53%の時間を立って過ごすようになる(多田 2011)
 孵化後約32 日齢には99%を巣内で立って過ごしていた(多田 2011)


巣立ち

 チュウヒのヒナの巣立ちの時期を定義するのは難しく、ヒナが巣を出入りする場合と(日本野鳥の会岡山県支部 2002,多田 2011,高橋ほか 2017)一度出たら戻ってこないと推測される場合がある(西出 1979)
 孵化後28日齢になると、ヒナは巣を離れて草地を移動する(西出 1979)巣が冠水したヨシ原にある場合、ヒナの飛翔能力がまだ充分に備わっていないときには、ヒナはヨシの茎を掴んで水面に落ちないようにしながら巣の外へ出ていく(多田 2011)巣への出入りを繰り返していたヒナの例では、約34 日齢には日中の46%を巣の外で過ごし、約47 日齢には日中の99%を巣の外で過ごしていた(多田 2011)
 ヒナが移動した場所の地面には、イネ科植物の枯葉が少量敷かれた、直径約40cmの疑似巣(西出 1979)あるいは休み場のようなもの(多田 2014(a))が作られる場合がある。この疑似巣は営巣地とほぼ同じ環境のヨシ原の中にあり、ヨシが疎で下草が多い場所に、ヒナが移動する都度つくられる(西出 1979)また、巣に隣接してつくられた例もある(多田 2014(a))
 推測ではあるが、巣立ち直後のヒナが巣の上ではなくヨシ原の中で過ごしているのは、直射日光による熱射病を防いだり、捕食者に見つからないようにするためではないかと思われる。

    (疑似巣の1例で、ねぐらに似た構造。メジャーは長径を示す。)


飛行

 孵化後約30 〜32日齢には羽ばたきの練習を行っており(西出 1979,多田 2011)約34〜36日齢には羽ばたきによるジャンプをし(多田 2011,高橋ほか 2017)、約39 日齢には数メートルほどの飛翔を行った(多田 2011)
 ヨシ原の外からヒナが飛翔する姿を観察できるのは、39〜41日齢ごろのようである(西出 1979, 日本野鳥の会岡山県支部 2002)。約41日齢には巣材をつかんで狩りのまねをするのが観察されている(多田 2011)
 約45〜48日齢になると、親鳥が運んできた餌を空中で受け取ろうとするようになる(日本野鳥の会岡山県支部 2002,多田 2011)なお、ヒナは飛行できるようになってもしばらくの間は、チュウヒに特徴的な両翼を浅いV字型に保っての飛翔はできず、トビなどのような一文字型での飛翔を行う。

    (推定45日齢のオスと思われるヒナ)


11.ヒナの独り立ち

 チュウヒのヒナは7月下旬〜8月中旬に独り立ちするようである(西出 1979,多田ほか 2010)
 ヒナは8週齢ごろになると、狩りのような行動を始めるようになる(多田 2014(a))ヒナが親鳥からの給餌を受けなくなるのは、孵化後60〜75日齢で(西出 1979,多田ほか 2010,多田 2014(a))長いものでは約86日齢だった例がある(日本野鳥の会岡山県支部 2002)
 ヒナのきょうだいは親から独り立ちしてからも1週間ほどは同じ木に止まったりするなど、行動を共にする(多田ほか 2010,多田 2014(a))

   (同じ木に止まって過ごすきょうだい)


12.親鳥の飛去

 
ヒナが独り立ちした後、親鳥はヒナよりも先に繁殖地から姿を消して越冬地へ向かうようであり、8 月中旬〜8月下旬には姿を消している(多田ほか 2010)繁殖が遅れたものでは親鳥の飛去が9月下旬となった例もあるが(多田 2014(a))、北海道では通常でも9月のようである(富士元 2005)
 なお、繁殖に失敗した場合、親鳥は繁殖地からすぐに姿を消すこともあれば、しばらくは繁殖地にとどまっていることもある。しばらくとどまっている場合には、新たな造巣活動が見られなくてもペアのつがい関係が継続していることもあり、オスがメスに約1か月間給餌を続けていた例がある(多田 未発表)一方で、繁殖失敗後もつがい個体が繁殖地にとどまっているものの、つがい間での行動が見られず、つがい関係が解消されていると考えられる場合もある。


13.幼鳥の移動

 幼鳥は早いものでは巣立ち1ヶ月後に大きな移動を始める。巣立ったヒナの1/3がどこかに移動し、もう1/3が繁殖地に留まり、残りの1/3はいつの間にか消えてしまう(中川 1991)
 移動するヒナについては、8月中旬〜9月には繁殖地から姿を消しはじめるようである(日本野鳥の会岡山県支部 2002,富士元 2005,多田ほか 2010)



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