【メニュー】


当サイトについて

チュウヒの概要


ハンティングに関する項目

体の特徴

狩りの方法

採餌環境


餌に関する項目

餌について

餌動物の種類


繁殖に関する項目

繁殖の概要

巣と卵

ディスプレイと餌の受渡し


なわばりに関する項目

行動域と縄張り

排他的行動


その他の項目

ねぐら環境とねぐら入り行動

渡りと国内移動

換羽、声、その他

引用文献

リンク

採餌環境



要約

 チュウヒが狩りを成功させるためには採餌環境が重要となる。チュウヒの採餌環境は、ある程度の草丈を持つ草地環境であると同時に、草丈や植生に変化のある場所となっている。
 また、チュウヒが狩りをする採餌環境は季節によって変化する。繁殖期には草丈がやや低めの明るい草地を好み、越冬期には水際に隣接した背丈の高い草地環境を好む傾向がある。さらに、チュウヒは性別によって採餌環境の傾向が異なるようである。




採餌環境の概要

 
チュウヒの「不意打ちハンティング」の特性上、狩りを成功させるためには採餌環境が重要となる。そのため、渡良瀬遊水地では、チュウヒの生息地は渡良瀬遊水地やその周辺の河川、大きな河川の下流域などの狭い地域に限られている(平野ほか 2003(b))


 採餌は主にヨシ原で行うが、それ以外にもオギ原(平野 2008)ススキ草地(浦ほか 2006)田んぼわきのあぜ道や道路(平野 2010,環境省自然環境局 2015)農地内の農道(境ほか 2009)麦畑(平野 2010)牧草とヨシが混在した環境(多田 2014(b))なども利用している。
 上記のような環境でも、草丈などの環境が単一(単調)だとチュウヒにとっては利用しづらい。近縁種のヨーロッパチュウヒでは、草丈に変化があり、獲物を急襲できる水路などが含まれる環境を好むと考えられている(Clarke 1995)。北海道では草刈りによってササ原内に部分的なギャップができた際に、草刈り地でのチュウヒの飛翔が増えた報告がある(藤田ほか 2014)。逆に、野焼きによってヨシが消失した環境では、ヨシが残った環境と比べて利用頻度が有意に下がったとの報告もあり(平野ほか 2003(a))チュウヒは草陰を利用できない裸地での狩りは苦手のようである。
 これらのことから、チュウヒが好む採餌環境は、ある程度の草丈を持つ草地環境であると同時に、その環境が一様ではなく、草丈や環境に変化があるところであると考えられる。

   

  
 (ヨシ原を横から見た模式図。矢印で示した環境のギャップを利用して、地上にいる餌に襲いかかる。)



●季節による採餌環境の違い

 
チュウヒは繁殖期と非繁殖期とでは、採餌環境に違いがあるようである。岡山県での事例では、同一の観察地において観察されたハンティング行動について、繁殖期にはヨシ原以外にも牧草地などの非ヨシ草地でのハンティングが約4割を占めていたのに対して、非繁殖期にはハンティングの9割近くがヨシ原で行われていたとの報告がある(多田 2014(b))
 このような季節的な採餌環境の変化の要因として、チュウヒの餌となる動物の分布や、植生の変化による餌動物の捕獲のしやすさの変化などが考えられる。



繁殖期>

 
繁殖期にはヨシ原を中心に採餌しつつも、牧草地や休耕田などの、草丈がやや低めの明るい草地への採餌環境としての依存が高まる。
 
繁殖期の採餌環境の草丈について、青森県の仏沼では、ヨシが優占する草地であれば草丈1.2〜2.4mほど、アゼスゲなどの非ヨシ草本が優占する草地であれば草丈0.5〜1.0mほどの環境を餌場とする傾向が見られる(多田ほか 2010)
 北海道のサロベツ湿原では、営巣地点の周囲1kmの環境要素として16地点中9地点で牧草地が最も多く含まれており、ほぼ全ての地点で水域や真幅道路などが含まれており、1つの環境条件のみで構成される地点はなかった(平井ほか 2017)。同じく北海道の勇払原野では、
イワノガリヤス-ツルスゲ群落、ホザキシモツケ群落、ヒルムシロクラスなど湿地性草本群落、そしてハンノキや畑雑草群落、開放水域が組み合わされる環境を重点的に利用していた(浦・酒井ほか 2019)秋田県八郎潟では、牧草地、幹線用水路、支線排水路およびヨシ原を狩り場として選択的に利用していると示唆されている(高橋・東 2014)。また、行動圏に牧草地がある地域ではチュウヒは集中的に牧草地を狩りに利用するが、牧草地が無い地域では麦畑と小排水路など、狩りに利用する環境を分散させていた(東 2016)。また、ネズミの密度が高く、区画面積が大きく、営巣地の近傍に位置する環境が、狩り場として選択されることが示唆されている(高橋・東 2014)。
 
なお、繁殖地周辺1km以内の生息地面積が減少して非生息地面積(メガソーラー・都市・森林)が増加すると、チュウヒのつがい数や巣立ち雛数が減少するという報告がある(先崎ほか 2015)。


 繁殖期の間、チュウヒは一定の採餌環境を持つわけでなく、時期によって餌場が微妙に変わっていく。青森県では、ヨシの伸長やチュウヒの繁殖ステージの進行に伴い、ヨシ原周辺の農耕地や休耕田での採餌行動の時間と頻度が増加することが報告されている(境ほか 2009,多田ほか 2010)また、アフリカチュウヒでは、狩りの成功率と採餌環境の草丈の間に関係があることが報告されている(Simmons 2010)夏期は草の急速な成長によって草丈が変化しやすいことから、草丈の季節的な変化に合わせて、チュウヒが採餌場所を変えていっている可能性がある。



越冬期>

 越冬期の採餌環境として、ヨシやオギからなる草丈が一様な高茎草原ばかりでなく、これらの高茎草原内を走る幅の狭い水路や小規模な池沼が点在する湿潤な湿地環境であることが示唆されている(平野 2008)
 同様に、セイタカアワダチソウとススキやヨシの生えた水路沿いを飛んでいることが多いとの報告(黒田 1994)や、ヨシなどの植物が植栽された人工浮島においては、ハンティングの76.5%は浮島の縁の部分で観察されたとの報告(平野 2005)がある。また、ヨシ原内に人工の池を造成したことで、越冬期の採餌場所としての利用が増加した報告もある(平野 2015)。
 これらのことから、カモ類やヨシ原の小型鳥類が増える越冬期には、水際に隣接した背丈の高い草地環境が、不意打ちハンティングに適していると思われる。

    (水辺のヨシ原を飛ぶチュウヒ)



採餌環境の雌雄差

 チュウヒの雌雄における採餌環境の違いについて、近縁種のヨーロッパチュウヒでは、メスの方がオスよりも草丈の高い草原を好むこと(Schipperほか 1975)や、メスでは狩りの82.5%を池などの水辺で行うのに対し、オスは狩りの57.9%を草地や農耕地で行うこと(Witkowski 1989)が報告されている。これは、オスの方が体重が軽く機動力が高いことや、メスではオスよりも体重があるため大きな獲物を捕まえられることが関係していると思われる。
 筆者の観察では、同じ越冬地内において、湖内にヨシが島状に生えているところをメスが積極的に利用している一方で、オギ原はオスが好んで利用しているなどの傾向が見られている。


人為的な草地との関係

 現在、チュウヒの生息地の多くは、干拓地や農地などの人為的な環境を含んでいる。それらの環境は、場合によっては、チュウヒの生息にプラスの影響を与えているようである。
 繁殖期においては、巣と採餌環境が隣接していることが、効率よく餌を巣に運び込むことへの条件となる。チュウヒの営巣場所と適している環境は、ヨシなどの高茎植物が密に生えているところだったり、冠水した土地だったりする。しかし、そのような営巣に適した環境には、あまり餌動物(特にネズミ類)がいない場合もある。餌資源の点から考えると、牧草地や農地、休耕田などの人為的な環境の方が、むしろ餌動物が多い場合もある。また、人為的な環境に適度な攪乱(草刈や細い農道)があることは、チュウヒが不意打ちハンティングを行う上での絶好のポイントにもなる。
 手つかずの自然環境の場合、上記のような営巣適地と採餌適地が隣接していることはめったにない。しかし、水路に面したヨシ原のすぐ隣に、採餌に適した草地が広がっているという「不自然」な環境は、人為的だからこそ成り立つ環境であり、チュウヒの繁殖にとって欠かせない環境となっている一面もある。


● 環境創出の取り組み

 チュウヒの生息環境(主に採食環境)の創出を目的に、ヨシ原の一部にクリークを掘削した事例がある(小川ほか 2016, 橋本ほか2018)。ただし、本手法のチュウヒへの効果は未評価である。



トップページへ戻る

inserted by FC2 system