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要約

 チュウヒの秋の渡りは、早いものでは8月中旬に始まり、越冬地でのねぐら入り個体数が最大となるのは10〜2月にかけてである。渡りは単独で行われているようで、岬などでの観察では渡りの姿をあまり見かけないため、サシバなどのようにはっきりとした渡りの姿は観察できない。国内で繁殖している個体では、秋の移動で750kmを移動した記録がある。
 春の渡りは3月頃からと思われるが、越冬地でそのまま繁殖する個体もいる。




春の移動:北上

 春になると繁殖地へ向けて移動を開始する。大陸から渡来してきた個体は大陸へ渡り、国内で繁殖している個体も繁殖地へと渡るが、場所によっては越冬期に渡来した個体が渡りを行うことなくそのまま繁殖に移行することがある(多田 2014(a))。
 越冬期に個体数が少なくなる北海道と青森県のあたりでは、3月下旬〜4月下旬に海峡などを渡っていくチュウヒが観察されている。このことから、青森県以北や大陸で繁殖を行うチュウヒは、この頃に春の渡りを行っているものと思われる。また、岡山県では4月に渡去のピークが見られる(多田 2015)


秋の移動:南下

 繁殖終了後に繁殖地から姿を消す親鳥が多いことから、8月中旬〜8月下旬が秋の渡りの開始時期だと思われる。また、繁殖に失敗した個体の中には夏の間に繁殖地から姿を消すものもいる。ただし、繁殖地から姿を消してもすぐに越冬地に向けて長距離移動するわけではなく、近距離の移動にとどめている場合もあるようである。北海道では、繁殖終了後の成鳥が繁殖地から約20〜80km離れた場所で1〜2か月間過ごし、その後に越冬地への渡りを行った事例がある(先崎ほか 2015(a),浦 2015)。一部のヒナは繁殖地に留まるが(中川 1991)他のヒナは親より少し遅れて越冬地へ向かう。
 秋の移動では、越冬地に数日しか滞在しない個体もいれば、数か月を同じ越冬地で過ごすものもいる(多田 2015)岡山県では越冬地に渡来してくる個体数が10〜12月に最大になると共に、12月には渡去する個体数も最大となることから、積雪の影響によって別の越冬地に渡去している可能性がある(多田 2015)
 大陸から日本に渡来するチュウヒは9月中旬〜10月に渡りを開始し(Dement’ev 1966)遅くとも10月末には日本の越冬地に到着している(森岡ほか 1995)




国内移動

 標識調査の結果では、石川県で標識した個体が、それぞれ福井県・愛知県・鳥取県まで移動した記録がある(中川 1991)最も早い移動は巣立ち1か月後で40km、最も遠くに移動した例は360kmだった(中川 1991)。羽色による個体識別では、繁殖後に北海道石狩平野で過ごした成鳥が、約1000km離れた愛知県田原市で越冬した例がある(先崎 2020)
 
北海道で標識した個体では、9月下旬に渡りを開始し、茨城県まで(直線距離750km)を7日間で移動した記録がある(浦 2015)。羽色による個体識別では、北海道勇払原野で繁殖したオス成鳥が、秋に繁殖地から約50km離れた石狩平野で1か月ほど過ごし、10月下旬から
関東地方の利根川下流域で越冬した事例がある(先崎ほか 2019)。羽色による個体識別では、その他にも北海道勇払原野で繁殖した成鳥が千葉県印旛沼周辺や愛知県田原市で越冬した例がある(先崎 2020)
 これらのことから、北海道や東北で繁殖した個体の移動は最大でも関東地方付近まで、北陸や中部で繁殖した個体の移動は最大でも九州地方(沖縄を含む)までと思われる。
 なお、全ての個体が渡りを行うわけではなく、幼鳥の中には繁殖地にとどまって越冬する個体もいる(中川 1991)



越冬地での個体数のピーク時期

 越冬期でのねぐら入り個体数が最大となる時期は、10〜2月までの間である(箕輪ほか 2004,平野ほか 2010,多田 2015)しかし、ハイイロチュウヒのようにはっきりとしたピークが現れるわけではなく、年によってピークとなる月が異なる(平野ほか 2010,多田 2015)
 一方、越冬地に新たに飛来してくる個体数が最大となるのは、10〜12月にかけてである(小栗ほか 2009,多田 2015)そのため、既に越冬地に渡来している個体数と新たに渡来してきた個体数の累積が最大になる時期が、ねぐら入り個体数の最多時期になっていると考えられる。
 また、岡山県の主要な2か所の越冬地では、ねぐら入り個体数が最多となった時期が異なっていた(多田 2015)


気候による越冬期の個体数分布への影響

 国内のいくつかの越冬地で1月に行った個体数調査では、年によってチュウヒの個体数の分布が県や地方レベルで異なっている傾向が見られた(多田・平野 2015,多田・平野 2017)。これには積雪などの
気候が影響していると考えられるが、今のところは十分な見解は示されていない。国内の個体数の増減について、2014〜2017年の1月に11都道府県17調査地で行った調査では、個体数の変動は21%以内に収まっていた(多田・平野 2017)
 一方海外では近縁種のヨーロッパチュウヒにおいて、越冬地の北限は冬季の平均気温が0℃となる等温線と一致するとの見解があり(Clarke 1995)ハイイロチュウヒでは冬季に積雪のない場所に渡るとされている(Sonerud 1986)また、ヨーロッパチュウヒでは秋の渡り後の移動は,餌資源量の季節変動との関連が示唆されている(Strandberg et al. 2008)

 水面の凍結やヨシ原への積雪はチュウヒの餌資源の減少や好適な採餌環境の減少などに繋がると思われることから、国内でも気候の影響を受けて越冬期のチュウヒの個体数の分布が年ごとに変化している可能性が高い。



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