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巣と卵



概要

 チュウヒの巣は、草丈2mほどの冠水したヨシ原の中に作られるのが一般的である。しかし、北海道ではササ原での営巣も多い。巣が乾燥地に作られることもあるが、冠水地の方が捕食者の侵入を防ぐことができ、繁殖成功率が高いようである。
 巣の大きさは直径が130〜50cmで、厚さが30cmほどある。巣材としては枯れたヨシの茎が多く使われている。
 チュウヒの卵は青味を帯びた白色をしており、大きさは48×37mm程度である。産卵数は3〜6卵が一般的で、巣立ちヒナは2〜3羽前後が一般的である。




営巣環境

植生

 チュウヒの営巣環境は、冠水したヨシ原(樋口ほか 1999,納家ほか 2007, 千葉ほか 2008, 平野 2010、多田ほか 2010,環境省自然環境局 2015)を基本としつつ、土壌に湿気のあるヨシ原(樋口ほか 1999,多田 2014(a))やヨシ・セイタカアワダチソウ環境(彦坂 1984, 池田ほか 2007,三重県 2009,小栗ほか 2009)である。また、ヨシ・ヒメガマ群落(環境省自然環境局 2015)乾燥したヨシ原(西出 1979,平野 2010)ススキ草地(納家ほか 2007,先崎 2017)オギ草地(市川ほか 2011,先崎 2017)、牧草地(先崎 2017)、潅木の生えた草地(日本野鳥の会岡山県支部 2002)でも営巣が行われる。
 北海道ではササ原(チシマザサ)での営巣が確認されており(樋口ほか 1999, Eduence Field Production 2011, 土門ほか 2018)全体の66.9%を占めていたという報告もある(Eduence Field Production 2011)
 例数の少ないものでは、ヨモギ・カヤ草地牧草地(Eduence Field Production 2011)タチヤナギの樹上(Eduence Field Production 2011)麦畑(平野 2010)がある。
 なお、北海道オホーツク海側でのチュウヒが好む営巣環境として、地盤高や植生高と営巣地との関連性は認められなかったが、営巣地周辺はチマキザサの密度が高く、低木が少ない傾向があったとの報告がある(鈴木ほか 2019)



草丈

 巣周辺の草丈は、ヨシ営巣地の例では平均2.0m(1.4〜2.5m) との報告があり(多田ほか 2010)高くても草丈2.5m前後の環境のようである(千葉ほか 2008,市川ほか 2011,環境省自然環境局 2015)。北海道のチシマザサ営巣地の例では、草丈が平均約1.5m(最小1.1m〜最大1.9m)との報告がある(土門ほか 2018)。一方で、北海道では植生高と営巣地との関連性は認められなかったとの報告もある(鈴木ほか 2019

 なお、チュウヒの巣の高さである地上50cmほどから空を見上げた場合、巣から約 1.5m離れたところからでは空が20%ぐらいしか見えないのに対して、巣の上からでは70%ほど見える(多田 2007)そのため、チュウヒの巣は上空からはほぼ丸見えの状態となっている。そのため、ドローンによる上空からの営巣観察の検討も行われている(岡部ほか 2018、浦・長谷部ほか 2019)

     
   (左:巣から上空を見上げた光景)     (右:巣より離れた場所から上空を見上げた光景)


水深 (冠水地での営巣の場合)

 冠水地での営巣の場合、巣周辺の水深は平均で28cmとの報告があり(多田ほか 2010)深くても40〜50cmのようである(千葉ほか 2008, 多田ほか 2010,高橋ほか 2017)
 繁殖成功率と巣周辺の水深との関係について、湿性地に営巣したつがいでは12例中6例が繁殖に成功し、乾燥地では7例中1例が成功したとの報告(平野 2010)や、湿地では11例中10例が成功し、乾地では14例中4例が成功したとの報告(高橋ほか 2017)があることから、湿地に造られた巣の方が繁殖成功率が高いと考えられる。古巣に餌を置いて獣類を誘引した実験では、獣類が出現した巣周辺の水深は平均6.6cm、出現しなかった水深は平均28.7cmで、水深14cm以上の巣では獣類が出現しなかったとの報告がある(高橋ほか 2017)。同様に古巣に餌を置いて獣類を誘引した実験では、湿地の巣での獣類の出現率は43%、乾地の巣では出現率が63%だったとの報告がある(高橋ほか 2017)。これらことから、冠水環境に営巣することで巣への捕食者の侵入を防いでいるものと思われる。
 巣内の気温と水深の関係について、湿地の巣では乾地の巣よりも正午前後の平均気温が低く、夜間の平均気温が高かったとの報告がある(高橋ほか 2017)。さらに、水深が深いほど正午前後の気温は低かったとの報告もある(高橋ほか 2017)。ただし、巣内の気温とヒナの生存率との間には有意な相関は見られていない(高橋ほか 2017)。



巣の利用回数

 チュウヒは古巣を再使用せず、毎年新しく造巣する(高橋ほか 2017)。ただし、前年度あるいは一昨年前の営巣場所のすぐ近くに巣を作ることがある(多田 未発表)。これは、前年度と同じ場所になわばりを持ったり、安全な営巣環境が限られていたりすることが要因になっていると考えられる。




巣の密度

 チュウヒの巣と巣の間の距離は、300mほどの事例がいくつかある(樋口ほか 1999,小栗ほか 2009)。最短の事例では50mほど(中川 2006)や150mほど(樋口ほか 1999)の事例があるが、かなりのストレスを受けているように見受けられたとのことである(中川 2006)また、巣間距離が1200mほど(納家ほか 2007)や4km程度(環境省自然環境局 2015)の例もあるが、これほど巣間距離が離れるのはチュウヒの性質というよりは営巣に適した環境が小規模に散在していたことによる影響が大きいと思われる。





巣の構造と大きさ

 チュウヒの巣の構造は、巣の骨組となる「基礎」と、卵が産み落とされる「産座」に分けられる。産座は抱卵期間からヒナの孵化直後には確認できるが、ヒナが活発に動き始めるころになると崩れてなくなり、修復されることはない。一方、基礎部分はヒナの孵化後も不定期に供給され、巣の厚みが増していく。

   


基礎部分

 巣の基礎の部分は、ヨシ営巣地の例では長径130〜50cm、短経95〜50cmの楕円形〜円形をしている(西出 1979,柿澤ほか 1999,納家ほか 2007,千葉ほか 2008,小栗ほか 2009,多田ほか 2010,市川ほか 2011,多田 2014(a))。チシマザサ営巣地の例では、長径の平均は約70cm(最大110cm)との報告がある(土門ほか 2018)。
 水面もしくは地上から巣の上部までは80〜5cmあるが、巣は折り倒したヨシの上に作られていることもあり、純粋な巣の厚さは30cmほどである。巣の大きさは繁殖ステージが進むほど大きくなる傾向が見られる(土門ほか 2018)。なお、繁殖ステージが進むごとに巣が大きくなる理由としては、育雛期に入っても親鳥が巣材運びを行うためと考えられる。
 基礎部分は、枯れたヨシの茎を積み重ねてできている(西出 1979,多田ほか 2010,市川ほか 2011)ヨシなどを折り倒した土台の上にヨシを積み上げて作っていたり(多田ほか 2010)外装にヤナギの長い枯れ枝を使っていることもある(千葉ほか 2008)

    
   (巣の外観。使用後のため、産座は消失。メジャー設置部は巣の長径を示す。)


産座

 産座の直径は25〜19cmで、深さは2.8〜2.3cmある(西出 1979,千葉ほか 2008,多田 未発表)それ以外の記録として、直径が31cm(西出 1979)深さが約1〜4cm(柿澤ほか 1999)や約8cm(千葉ほか 2008)という記録もある。
 産座は、柔らかなイネ科植物の枯葉を皿形に浅く敷きつめてできている(西出 1979、千葉ほか 2008,多田ほか 2010, 市川ほか 2011)。また、ヨシの短い茎が使われていることもある(千葉ほか 2008)

     
   (左写真:産座の拡大写真。未使用のため、細かい葉が残っている。
   (右写真:巣にまだ産座が残っている状態。中央は少し窪んでいる。産座の外側に基礎部分が見えている。)




卵の大きさと産卵数

 チュウヒの卵は、青味を帯びた白色で、斑紋を欠き光沢は弱い(西出 1979)しかし、日数が経過すると青味は薄れて白色に変わり(西出 1979)艶のない淡い灰白色(千葉ほか 2008)になる。
 卵の大きさは、北海道では66例の平均が48.3×37.4mmで、重さ38.6gだったとの記録がある(Eduence Field Production 2011)記録値の範囲としては、長径が55〜44.5mm、短径が41〜36.3mmである(石沢1955,清棲 1965, 清棲 1966,西出 1979,千葉ほか 2008, Eduence Field Production 2011)
 卵重量は産卵後1〜4日経過後が39.1g(n=3)、抱卵中期に36.4g(n=5)、孵化1〜4日前に35.3g(n=5)だった(千葉ほか 2008)
 産卵数(クラッチサイズ)は3〜6卵が一般的なようであり(西出1979,樋口ほか 1999, 中川 1991,千葉ほか 2008,平野 2010,市川ほか 2011)、平均で4.07卵だった例もある(富士元 2005)。他にも1卵(千葉ほか 2008)や7卵(西出 1979, 蒲谷ほか 1985, 中川 1991,平野 2010)の記録もある。




巣立ちヒナ数

 巣立ちヒナの数は平均すると2.5羽(中川 2006)や3.14羽(富士元 2005)だったとの記録がある。他の報告でも巣立ちヒナの数は2〜3羽前後である(樋口ほか 1999,日本野鳥の会岡山県支部 2002,三重県 2006,多田 2007,千葉ほか 2008,平野 2010,三重県 2012,多田 2014(a),環境省自然環境局 2015,Senzaki et al. 2015,近藤 2017,三上・前田 2017,高橋ほか 2017)
 巣立ちヒナは最高で5羽だったとの報告があるが(中川 2006)
1羽だけの例も珍しくない(西出 1979,樋口ほか 1999, 多田 2007,納家ほか 2007,近藤 2017,三上・前田 2017



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