ディスプレイと餌の受渡し
【 要約 】
チュウヒの繁殖に関するディスプレイ(ディスプレー)としては、「波状飛行」「疑似攻撃」「2羽での飛行」「餌の受渡し」がある。ただし、「波状飛行」はテリトリーの主張が主な目的のようであり、「餌の受渡し」はつがい形成の儀式以外にも、メス親への給餌としても行われる。 つがい間、あるいは親子間での餌の受け渡しは、主に空中で行われる。餌を受け渡す個体の下に、餌を受けとる個体が入り込み、落下してきた餌を反転して足でキャッチする。
● 繁殖に関するディスプレイ
<波状飛行(フライトディスプレイ)>
高空で宙返りをしながら急降下し、途中でひねりを入れて着地するなどの多彩なディスプレイが見られる(彦坂 1984)。宙返りを行う際には、「ピュー」もしくは「ピョー」のように聞こえる鳴き声を発する。北海道の観察例では、ディスプレイにはいくつか種類があり、「深い羽ばたきのディスプレイで高空まで上昇したのち、らせん状に急降下・急上昇を繰り返しながら高度を下げ、営巣地もしくは営巣地付近の草地へ降下するもの」は同種他個体(特に同性)に対しての縄張り宣言のような局面で行われることが多く、「中空から翼をしぼめたまま、急降下・急上昇を行うもの」は営巣地上空を飛翔したオジロワシに対して行ったことから、より排他的な意味合いが強いように感じられると指摘されている(先崎 2017)。同様に青森県仏沼での観察例でも、波状飛行には求愛以外にもテリトリーの主張などの意味合いを兼ねている可能性があるとの指摘がある(多田ほか 2010)。外国の文献では、チュウヒ類の波状飛行は、主にテリトリーの主張が目的であり、異性を引きつける効果は付随的であると考えられている(Simmons 2010)。 北海道のフライトディスプレイは渡来直後から抱卵期まで特によく見られ、頻度は減るが育雛後期まで観察される(先崎 2017)。青森県仏沼ではつがい形成後の6 月頃まで観察される(多田ほか 2010)。また、一度繁殖に失敗した後に再繁殖する際にも、一時的に波状飛行を再開した例がある(多田 2014(a))。 波状ディスプレイは主にオスが行うが、メスが行うこともある(多田 2014(a))。ただし、メスの場合はオスに比べて急降下の落差が小さく、派手さに欠ける。 なお、波状ディスプレイは10月や1月などの越冬期にもまれに観察されることがある。この時期の波状ディスプレイは繁殖行動とは関係の無い、越冬期の採食場所の縄張りの主張が目的のものと思われる。
なお、波状飛行は上昇気流の発生する昼前によく観察され、アフリカチュウヒでは11時が最大となる(Simmons 2010)。
(左:急上昇中 右:急下降中)
<疑似攻撃>
オスがメスに疑似攻撃を仕掛けることがある。オスはメスに向かって疑似攻撃を仕掛け、メスは体を反転させ足をオスに向けて突き出す(彦坂 1984,日本野鳥の会岡山県支部 2002)。あくまで疑似的であり、実際に相手に接触することはない。場合によってはメスの方からオスに向かって疑似攻撃を仕掛けることもある。排他的行動で見せるモビングと似ており、疑似攻撃との識別のためには、行動前後の2羽の行動を見ておく必要がある。 この行動は抱卵後には見られなくなり(多田ほか 2010)、繁殖失敗後のつがいが再営巣するまでの間に見られることもある。 なお、抱卵期のメスが、樹上などに止まって休んでいるオスを追い出して採餌行動を促すような行動をすることがあるが、上述の疑似攻撃のようなつがい形成やつがい関係の維持のような意味は持っていないと思われる。
<2羽での飛行>
オスとメスで螺旋を描くように(2羽でタカ柱を作るように)遥か高空まで昇ったり、連れ添ってヨシ原の上を低く飛ぶ(中川 1991)。排他的行動で見られる追跡飛行や追い出しとは異なり、相手を追い出すようなそぶりは見せないが、らせんを描くような旋回飛行から、疑似攻撃へと移行することもある。 この行動は抱卵後には見られなくなる(多田ほか 2010)ことから、つがい形成の際に行われるものと考えられる。
(連れ添って飛ぶ様子。上奥がオス、下手前がメス。)
<メスへの餌の受渡し>
チュウヒのオスはつがい相手のメスに給餌するために、空中や地上で餌の受け渡しを行う。この行動がつがい成立の合図になっていると思われる。 つがい形成後から抱卵が始まるまでの間のメスへの給餌の様子はつがいによって異なり、オスが積極的にメスに給餌するつがいもあれば、メスへの給餌がほとんど見られないつがいもある。しかし、メスが抱卵を開始し、ヒナの孵化後にメスが採餌行動を再開するまでの間は、どのつがいでもメスへの給餌が積極的に行われる。
(メスはオスの下後方から接近し、オスが離した餌を空中で掴み取る。)
● 餌の受け渡しの様子
つがい間や親子での餌の受け渡しの様子は次のとおりである(西出1979,日本野鳥の会岡山県支部 2002)。基本的には疑似攻撃のときと同じような動きをする。
1.オスが餌を掴んで現れ、巣の上空で「キュイー・キュイー」と鳴く。
2.メスはこの鳴声を聞くと巣を離れ、「キャ・キャ・キャ・キャ」と鳴いてオスのあとを執拗に追いかける。
3.オスは急上昇してメスの上空高く舞い上がり、メスを下に見ると、まるでメスを背後から襲うかのように餌をもった両脚 を前に突き出す。その際、メスはオスの真下に入り込み、身を反転させて足を空に向ける。
4.オスとメスが向き合うような格好となると、オスが餌を手放し、メスがそれを空中で受け取る。
親子間でこれを行う場合には、ヒナが上記のメスと同じ行動を取る。上記のような受け渡しの他にも、メスが餌を持ってきたオスめがけて突進し、ほとんど奪い取るようにして餌を受け取る様子も観察されている(彦坂 1984)。 なお、繁殖期の初期には、餌の受け渡しの時に雌雄で上記のような鳴き交わしをすることが多いが、繁殖期が進むにつれて、鳴き交わしを行わずに餌の受け渡しをするようになるつがいもいる。また、繁殖期の初期から、ほとんど鳴き交わしをしないつがいもいる。
餌の受け渡しを失敗することもあり、オスが餌を放す間合いが早すぎて、メスが落下する餌を慌てて追いかける様子が観察されている(日本野鳥の会岡山県支部 2002)。また、地上でのみ餌の受け渡しをするつがいもいることから(中川 1991)、失敗の頻度が多いつがいでは、地上での餌の受け渡しに切り替えていると思われる。なお、換羽中のメスでは、一時的に餌の受け渡しの成功率が低下する事例が観察されている(多田 未発表)。
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